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松山地方裁判所今治支部 昭和37年(ワ)93号 判決 1968年2月23日

原告 渡辺豊延

右訴訟代理人弁護士 渡部利佐久

同 橋田政雄

被告 桜井タクシー株式会社

右代表者代表取締役 横井力丸

右訴訟代理人弁護士 二反田真一

主文

被告の昭和三七年五月二四日付第一回定時株主総会における決算報告を承認する旨の決議および菅野舜三、木谷村ヤス、小林幸子らをいずれも取締役に、菅野省三を監査役に各選任する旨の決議はいずれも無効であることを確認する。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は、第一次請求として、主文同旨の判決(なお、原告は主文記載の決議について不存在確認を求める旨の表現を用いているが、右は決議不存在を理由としてその決議が無効であることの確認を求める趣旨と解する。最高裁昭和三八年八月八日第一小法廷判決、民集一七巻六号八二三頁参照)、第二次請求として、「主文第一項記載の各決議を取消す。訴訟費用は被告の負担とする。」旨の判決を求め、その請求原因として、

一、原告は被告の株主であり且つ取締役である。

1、被告は昭和三六年五月九日資本金五〇万円、株主総数一〇名を以て設立されその登記を経由したが、同年一一月二〇日資本金二〇〇万円に増資したもので、原告は一株金五〇〇円の株式一、〇〇〇株の株主である。

2、原告は右設立と同時に被告の取締役に就任したものであるから商法二五六条二項によって昭和三七年五月九日の経過を以て任期を満了すべきところ、新たな取締役の選任も就職もないのであるから、同法二五八条一項により現在もなお取締役の権利義務を有するものである。

二、主文記載の株主総会の決議は存在しない。

1、被告備付けの株主総会議事録によると昭和三七年五月二四日今治市桜井遊園地において主文記載の株主総会が開催され同記載の決議があった旨の記載がなされ、且つ取締役および監査役の選任については同月二六日その旨の登記がなされている。

2、右株主総会の議事録は菅野省三が同人と身分関係のある司法書士に依頼し虚偽の登記をするために便宜作成したもので、右議事録記載の総会もまた決議も全く存在しない。

3、仮に、右議事録記載の株主総会が事実上開催され同記載の決議と認め得べきものが一応成立しているとしても、同総会には重大な瑕疵があり法律上総会またはその決議の成立を容認し得ない。したがって右総会は成立せずしたがってそこでなされたという決議も存在しない。

イ、商法二三一条によると株主総会の招集は同法に別段の定めある場合の外取締役会においてこれを決しなければならないところ、被告は取締役会を招集してその決議をしていない。当時被告の取締役であったことが明らかである原告に対し取締役会招集の通知もなくまた出席したこともない。この点について被告の自白の撤回には異議がある。

ロ、右株主総会が開催された当時の株主は、原告(一、〇〇〇株)、渡辺ツヤ子(五六〇株)、渡辺満義(四〇株)、渡部薫(四〇〇株)、菅野舜三(八〇〇株)、菅野美智子(四〇〇株)、小林幸子(一〇〇株)、木谷村ヤス(四〇〇株)、菅野省三(二〇〇株)、小林政雄(一〇〇株)であったが、被告は右総会開催の通知を原告および右ツヤ子、満義、薫の四名に対してはしていない。そして右四名の所有株式は合計すると二、〇〇〇株で被告全株式の二分の一に当るものであるから、同人らに対する通知を欠きその出席なくして開催された総会は著しい瑕疵があるものというべくその成立はなく、したがって右総会でなされた決議も存在しない。

三、仮に、主文記載の株主総会の決議が存在し無効とは言い得ないとしても、右総会招集の手続が法令に違反しているので取消さるべきものである。

1、右株主総会の招集は取締役会の決議を経ていない。これは商法二三一条に違反する。

2、原告およびツヤ子、満義、薫らは前記のとおり被告の株主であるところ、本件株主総会の招集については同人らに対して何らその通知がなされていない。これは商法二三二条に違反する。

四、よって原告は株主として、仮に株主でないとしても取締役として第一次的に主文記載の株主総会の決議の無効確認を、株主として第二次的に右総会の決議の取消しを求める。

と述べ、抗弁に対する答弁として、

抗弁事実を否認する。原告は妻ツヤ子、兄満義および妻の兄薫らの援助の下に評価資産約六〇〇万円の個人タクシーを営業していたところ従兄弟に当る菅野省三の奨めにより被告会社を設立したが、その際融資を受けるために必要であるというので同人に対し自己の分は固よりツヤ子、満義、薫らの株券すべてを預けた。右原告らは省三に印鑑を預けたことはあるが右は会社設立のためであって株式の譲渡を承認し譲渡証書に押印することを許していたものではない。況や譲渡証書等は作成交付していない。原告は省三に対し被告から手を引くように要求したのに対し同人は被告の設立に出費があったので金一〇〇万円を提供するならば手を引くというので右金員を提供したところ、更に金二〇〇万円を要求したため話合いができなかった事実がある。したがって被告の株主名簿が正規のものであればこれに原告およびツヤ子、満義、薫らが株主として記載されている筈であり、記載されていないとすれば不正な株主名簿というべきである。ところで被告の株主名簿によると昭和三六年一〇月二五日現在において原告およびツヤ子、満義、薫らが株主として記載されているが、同年一二月一〇日現在では同人らの氏名が消えており、昭和三七年六月一〇日現在では横井力丸一名が株主となっているのであるが、右原告らの株式譲渡の記載がない。元来右株主名簿は株券の番号、株式取得の年月日等法定事項の記載を欠くものであるからこれを適法な株主名簿と認めることができず、したがってこれに記載がないとしても株主たるの地位に消長はない。原告およびツヤ子、満義、薫らは被告の株券を現実に占有しておらず、同人らから譲渡を受けたと称する者らを経て現に第三者がこれを占有しているが、右株券には商法二二五条の規定に違反して番号がなく、また印紙税法所定の印紙の貼付または印紙税納付済みの税務署の証印がなく株券としての形式を備えないのでこれを株券と認めることができないのであるから、これを占有しないからといって株主たるの地位を失うものではない。更に株式譲渡の事実がないにもかかわらず譲渡証書だけが不法に作成されていることは渡辺ツヤ子の分が渡辺艶子名義を以て、渡部薫の分が渡辺薫名義を以て作成されているところからしても明らかである。また株券の名義書替えおよび裏書の形式にも誤りがあり特にその譲渡、裏書について被告会社取締役の証印のあるものは全くない。以上の諸点から原告らの株式の譲渡が存在しないことは明白である。

と述べ(た。)≪証拠関係省略≫

被告訴訟代理人は、「原告の第一次および第二次請求をいずれも棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」旨の判決を求め、答弁として、

一、請求原因第一項1の事実中、原告が被告の株主である点および設立当時の株主総数が一〇名であった点を否認し、その余は認める。原告はツヤ子、満義、薫らとともに設立時および増資時株式を引受けたこととなっているがそれは名義だけで、菅野省三が右原告ら名義の株式の払込みをし株券を所有していたもので、昭和三六年一二月一〇日付で同人らからその名義の右株式譲渡の委任状を受領していたものである。

二、請求原因第一項2の事実中、原告が昭和三六年五月九日被告の設立と同時にその取締役に就任したこと、商法二五六条二項によって昭和三七年五月九日の経過を以て任期が満了したことは認めるが、その余は争う。原告は主文記載の株主総会の決議によって取締役の権利義務を喪失した。

三、請求原因第二項1の事実は認める。

四、請求原因第二項2の事実は否認する。

五、請求原因第二項3のイの事実は否認する。尤も、被告は昭和三七年一〇月二日の第二回口頭弁論期日において答弁書に基づく陳述によりこれを認めたが、右自白は錯誤に基づくもので且つ真実に反するので同年一一月二日の第四回口頭弁論期日においてこれを撤回した。被告は原告に対し口頭を以て取締役会招集の通知をなし、これを開催したが原告は届けをして欠席した。

六、請求原因第二項3のロの事実中、被告が主文記載の株主総会招集の通知を原告およびツヤ子、満義、薫らにしていないことは認める。しかしながら同人らが右株主総会当時被告の株主であったとの事実は否認する。右株主総会当時いずれも株主ではなかったものであるから右通知がないのは当然である。

七、請求原因第三項1に対する答弁は同第二項3のイに対するものと同じである。

八、請求原因第三項2に対する答弁は同第二項3のロに対するものと同じである。と述べ、抗弁として、

仮に、原告、ツヤ子、満義、薫らが原告主張のとおり被告の設立当時から増資当時にかけてその株主であったとしても、昭和三六年一二月一〇日原告はその所有全株式一、〇〇〇株を省三に、ツヤ子はその所有全株式五六〇株を舜三に、満義はその所有全株式四〇株を村上圭吾に、薫はその所有全株式四〇〇株を小林幸子に、それぞれ譲渡証書に押印することによって適法に譲渡し株主としての地位を喪失したものである。このことは省三側の全員が昭和三七年二月二四日その所有株式を横井力丸に処分せざるを得なくなった際、原告において当時被告と関係がないことを認めたうえ右省三側全員所有の株式の譲渡を受けて被告の経営に当りたい旨申出で、同年三月二〇日までにその代金の提供をすることを約しながらその履行ができなかった事実に照らしても明らかである。省三は同年六月一日右譲受けた株式中八五〇株を、同月一〇日同じく五〇株をいずれも前記横井に、同月一日同じく一〇〇株を村上和子に各譲渡し、右和子は同年一二月一〇日にこれを同じく横井に譲渡し、舜三は同年六月一日右譲受けた株式中五一〇株を、同月一〇日同じく五〇株をいずれも横井に、村上圭吾は同月一日右譲受けた株式四〇株を横井に、小林幸子は同月一日右譲受けた株式中三〇〇株を、同月一〇日同じく五〇株をいずれも横井に、同月一日同じく五〇株を木谷村ヤスに各譲渡し、右ヤスは同月一〇日これを横井に譲渡している。

と述べ(た。)≪証拠関係省略≫

理由

被告が昭和三六年五月資本金五〇万円を以て設立されその登記を経由し、同年一一月二〇日資本金二〇〇万円に増資したこと、および被告備付けの株主総会議事録によると昭和三七年五月二四日今治市桜井遊園地において主文記載の株主総会が開催され同記載の決議があった旨の記載がなされ、且つ取締役および監査役の選任については同月二六日その旨の登記がなされていることは当事者間に争いがない。

原告は自らは固よりツヤ子、満義、薫らがいずれも被告の株主である旨主張するので判断する。≪証拠省略≫を総合すると次の事実を認めることができる。原告は妻ツヤ子、兄満義、妻の兄薫らの援助の下に昭和二八年六月一一日免許を受けて「桜井タクシー」の商号でタクシーの個人営業を始め、昭和三六年四月頃には四台の営業車を保有するまでになっていたのであるが、運転手の不足や資金調達の失敗等が原因で業績が振わず金融機関および金融業者らからの借受金を含めて合計約二〇〇万円の債務を生ずるに至った。省三は原告とは従兄弟の関係にあるが、原告から当時大阪方面で貨物自動車の運転手をしていた長男舜三を帰郷させたうえ原告経営のタクシー業の運転手として働かせるよう要請を受けたことから過去にタクシー業を経営した経験もあるため右タクシー業の経営について原告の相談に預ることとなり、その結果原告に対し資金調達の面で種々便宜であるとして右タクシー業を株式会社組織にすることを奨め、もし株式会社にするならば省三自ら経営に参画してその立直しに尽力することを約した。そこで原告は右タクシー業を株式会社組織にすることを決意し、右営業によって生じた負債全部を設立すべき会社に事実上引受けさせるとともに営業資産一切を同社に譲渡することとした。そして一応資本金五〇万円の株式会社を設立することとなったのであるが、右資本金の払込みについては省三において全部責任を持ち、その金員は原告から引受けた債務の支払いと当座の運営資金に充てることとした。よって省三はその内妻木谷村ヤスから金六〇万円を借受け、うち金一〇万円を会社設立の諸費用に使用し残金五〇万円を株式払込金として一旦伊予銀行桜井支店に保管させたうえ同年五月八日被告会社を設立し同月九日その登記を終えた後これを払戻して被告の右引受け債務の支払い等に充てた。被告は設立当時一株金五〇〇円の株式一、〇〇〇株を発行したのであるが、原告は被告に対しタクシーの営業権、自動車四台、自動車の工具部品一切、電話一本と自己所有の営業所用および車庫用各建物の使用権等を譲渡することとしたので、被告に引受けさすべき前記債務を控除してもなお約金二〇〇万円の実質上の出費をしたこととなるのに対し、省三の実質上の出資は前記金六〇万円にすぎないので、右株式については右割合によって原告がその大半の分配を受けるべきとしたが、省三の経営立直しについての今後の尽力を評価した結果、原告側と省三側においてこれを折半することとなり、原告側において原告が二五〇株、ツヤ子が一四〇株、満義が一〇株、薫が一〇〇株、省三側において省三が五〇株、舜三が二〇〇株、木谷村ヤスが一〇〇株、省三の二女小林幸子が二五株、その夫小林政雄が二五株、その他身内の菅野美智子が一〇〇株をそれぞれ取得した。被告は昭和三六年一一月二〇日一株につき三株の新株を割当てて有償増資し資本金を二〇〇万円としたが、実質上は資産の評価増による無償増資であり、その結果、原告が一、〇〇〇株、ツヤ子が五六〇株、満義が四〇株、薫が四〇〇株、省三が二〇〇株、舜三が八〇〇株、木谷村ヤスが四〇〇株、小林幸子が一〇〇株、小林政雄が一〇〇株、菅野美智子が四〇〇株のそれぞれ株主となった。以上の事実を認めることができる。そして右事実からすると原告側の四名は設立時引受けた株式の払込みを自らしてなく現実にこれをしたのは省三であるが、これは前記認定の事情から同人において設立すべき被告の実質上の利益とこれによって受ける自己の反射的利益とを考慮して右原告らに代ってその払込みをしたものであり、同人ら名義で自らがその株主となる目的でこれをなしたものでないことが明らかであるから、右原告らは省三の出費によって被告の株主となったものと認めることができる。被告は、原告側の四名は設立時および増資時株式を引受けたこととなっているがそれは名義だけで実際は省三がその払込みをして自ら株式を取得し株券を所有していたものである旨主張し、≪証拠省略≫中には右主張と符合する部分があるが、原告側四名において自ら直接に株式の払込みをしなかったとしても、このことから直ちに同人らを単なる名義だけの株主で実質上の株主ではないとは言い得ないことは前記認定のとおりであるから、この事実に照らし右資料はとうていこれを信用することができない。そして他に右認定に反する資料はない。

被告は、仮定的抗弁として、原告側四名が原告主張のとおり被告の株主であったとしても、昭和三六年一二月一〇日原告は省三に、ツヤ子は舜三に、満義は村上圭吾に、薫は小林幸子に、それぞれ所有株式全部を譲渡証書に押印して株券とともに譲渡することにより株式を喪失したものである旨主張するので判断する。≪証拠省略≫を総合すると次の事実を認めることができる。被告会社を設立すると同時に、原告は代表取締役、舜三および木谷村ヤスはいずれも取締役、省三は監査役に就任したうえ、実際の営業上の衝には原告が当り、舜三は運転手として働き、省三は営業の指導と資金の調達、債務の整理等に当っていたが、被告の経営に関し原告と省三とは共にその主導権を主張するため次第にその仲も円滑を欠くに至った。そしてその後間もなくして省三が横井力丸の助力を仰ぐようになりその発言権が強くなるに従い、原告は会社の実権が次第に自己の手から離れていくことを危惧し省三に対し被告の経営から手を引くことを求めた。省三はこれに対し自己の被告に対する出資金に加えその無形の貢献を評価して昭和三七年三月二〇日までに原告から金一〇〇万円の支払いがあるならば被告の経営から手を引くこととし原告にその旨を約したのであるが、原告は右期間までに右金員の支払いができず、その後右金員が増額されたこともあって結局原告の右希望は実現しなかった。ところで省三は既に昭和三六年一二月一〇日には自己側の株式全部を横井力丸に譲渡していたのであるが、原告側四名の株式についても、同人らは実質上の株主でなく単に形式上の株主にすぎないとの見解の下に、その株券を保管していたこともあって、これらを自己側の者の名義にすべく譲渡証書を偽造したうえ、同日原告の株式については自己あてに、ツヤ子の株式については舜三あてに、満義の株式については村上圭吾あてに、薫の株式については小林幸子あてに譲渡の形式を採っているのであって、そのため同日以降被告においても原告側四名を株主から除外している。以上の事実を認めることができる。≪証拠省略≫中には、省三は前記譲渡証書を原告らからその印鑑の押捺を得たうえ同人らの承諾の下に作成したものであり、その譲渡には同人らはいずれも異議がなかった旨の供述部分があるが、右は原告らは形式的には被告の株主となっているが実質的には株主ではないとの事実を前提とするものであるところ、既に認定のとおり、原告およびツヤ子、満義、薫らがいずれも実質上の株主である事実が明らかであるから、これらをたやすく信用することはできない。そして他に右認定を覆えして被告の抗弁事実を認め得べき資料はない。ところで≪証拠省略≫を総合すると、原告側四名の株式に対応する株券が前記偽造にかかる譲渡証書添付のうえそれぞれ省三、舜三、村上圭吾、小林幸子らに譲渡され、更に同人らからうち一部は村上和子、木谷村ヤスらを経ていずれも譲渡証書添付のうえ横井力丸に譲渡され同人が現にこれらを所持している事実を認めることができる。しかして右≪証拠省略≫によると、右株券にはいずれも原告主張のとおり商法二二五条所定の番号がなく、且つ印紙税法所定の印紙の貼付または印紙税納付済みの税務署の証印のない事実を認めることができるのであるが、これを以て株券でないものということができるかどうかは別として、被告において右株券について横井の即時取得を主張するものでもないから、原告らは現に被告の株主であるものということができる(尤も、仮に右即時取得の主張があったとしても、更に原告が横井の右取得につきその悪意または重過失を主張し且つ横井の被告に対する従来の関係からして右主張の認められる余地が大きいので、結局右即時取得の主張は採用される可能性がないものと考えられる。)。

以上、原告は現に被告の株主であるから、被告の株主総会の決議の無効を主張しまたはその取消しの訴を提起し得べき者であるが、まず原告は本件決議のなされたという株主総会はそれ自体全く開催されてなく、したがって決議等なされている筈はないにもかかわらず議事録だけが作成されている旨主張するので判断する。≪証拠省略≫によると、被告の株主名簿と題する書面には昭和三六年一二月一〇日現在の株主として菅野舜三、菅野美智子、小林幸子、木谷村ヤス、菅野省三、小林政雄、村上和子、村上圭吾の八名が記載されていること、≪証拠省略≫によると、被告の昭和三七年五月二四日開催の定時株主総会議事録には株主総数八名、出席株主数八名と記載されていること、≪証拠省略≫によると、同日以前で最も近い時期において作成されている株主名簿と題する書面は右昭和三六年一二月一〇日現在のものであること等の事実をそれぞれ認めることができるのであって、右事実からするとき右株主総会に出席した株主とは右株主名簿と題する書面に記載されている菅野舜三外七名を指すものと推認することができる。ところで≪証拠省略≫によると、省三から村上和子に対し株式一〇〇株が譲渡されたことにより同人が株主となったというのは≪証拠省略≫の記載にかかわらず昭和三七年六月一日である事実を認めることができるのであるから、同人が前記株主総会が開催されたという同年五月二四日当時被告の株主でなかったことは明らかであり、したがって右和子が株主として被告の株主総会に出席することなどあり得べきことでないにもかかわらず右議事録にはその旨記載されているのである。また被告はその抗弁において省三側の全員は昭和三七年二月二四日その所有株式全部を横井力丸に対し処分した旨主張し、また既に認定の事実に加え、≪証拠省略≫を総合すると、省三、舜三、美智子、木谷村ヤス、小林幸子、小林政雄らが被告設立当時引受けその後増資によって引受けた株式全部が昭和三六年一二月一〇日横井に譲渡されている事実が明らかであるが、右株式の移動は前記株主総会までに株主名簿に記載されていないため横井は株主として株主総会に出席しその権利を行使することができなかったとしても、既に認定の事実からして横井は被告の経営権を掌握する目的で株式の譲渡を受けたものと推認することができるのであるから、その後の株主総会を拱手傍観することなどとうていあり得ないのであって直ちに名義を書替えて株主総会に出席の権利を確保すべきものと考えられるのに、その措置を採っていないことになり、また横井に対する株式の譲渡によって右株主総会が開催された当時少くとも菅野美智子、木谷村ヤス、小林政雄の三名は、名義書替未了のため形式的には被告の株主であったとしても実質上その株主でなかったことが明らかであるにもかかわらず(省三、舜三、小林幸子は同じく株式を横井に譲渡しているが、一方原告側から株式の譲渡を受けている旨被告において主張しているので除く。)右株主総会に株主として出席していることになるのであって、これらはいずれも条理に照らし首肯できないところである。更に右株主総会についてはその招集を決すべき取締役会の決議は固よりその開催もない旨の原告の主張事実を当初被告は自白し後に錯誤を理由にこれを撤回しているのであるが、被告の立証を以てしても右自白が真実に反する点を明らかになし得ないから右自白の撤回を許すことができないのであって、被告の主張する株主総会の招集についてはこれを決すべき取締役会の決議は固よりその開催もなかったことに帰する訳である。以上の諸点に、≪証拠省略≫を併せ考えるとき、被告が昭和三七年五月二四日に開催したとして議事録に記載されている同日付株主総会はその開催の事実がなく、単に議事録が作成されているにすぎないものと認めることができる。

仮に、右株主総会が開催されて主文記載の決議がなされたとしても、既に認定の事実からすると、原告側四名の株主に対しては招集の通知もなくまた同人らの出席もなく、省三側一派の株主の出席によって総会が開催され決議されているのであるが、原告側四名の株主の所有株式は合計二、〇〇〇株で発行総株式の半数を占めるものであるから同人らを除いた株主全員が出席したとしてもその総会は定足数を欠くものであるうえ、出席株主がすべて省三の身内の者である事実に照らすとき、右総会の決議は単に招集手続上の瑕疵を理由にその取消しを求め得るというに止らず、右瑕疵の程度からして総会は成立せずしたがって右機会になされた決議も存在しないものと認めるのが相当である。

してみると、原告が被告の株主として主文記載の株主総会の決議が存在しないことを理由としてその無効確認を求める本訴第一次請求は正当であるから認容すべく、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 高田政彦)

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